そこへ、さっきのパトカーに同乗していたらしき警察の人がもう1人やってきた。
「大丈夫ですか?落ち着いて、ゆっくり呼吸して」
ハンドルに突っ伏して過呼吸になっていたので顔はよく見えなかったが、声から若い人だとわかった。
その人は泣き叫ぶわたしに優しい言葉をかけてくれ、ゆっくり呼吸するよう促してくれた。
「過呼吸の時はゆっくり呼吸する」ということを知っている人はそんなに多くない。それだけでわたしは安心した。
「落ち着くまで待ってるから、大丈夫ですよ」と言いながら、「鼻から大きく吸って〜、口から吐いて〜」というのをわたしの呼吸に合わせて繰り返してくれた。
おかげでわたしは少しずつ落ち着いていった。
「良かったら、これ使ってください」と言って、ポケットティッシュを1枚差し出してくれた。
涙声でお礼を言い、ありがたく使わせてもらった。
「ごめんね、いきなりびっくりしたよね。僕らもそんな今すぐ捕まえようとか、何かしようとかそんなんじゃないから安心して」
と前置きした後、その人はわたしの運転の一部始終をゆっくりと聞きながら、今回のことについて詳しく説明してくれた。
警察の人によると、さっきの交差点のところには、それぞれの車線にオレンジ線が引かれていたらしい。
つまり、その線を踏んで途中で車線変更することはれっきとした「違反行為」になる*1、ということみたいだった。
正直なところ、わたしは車線の色など全く気にしていなかった。
もちろん「オレンジ線を踏んではいけない」というのは知識として持ってはいたけれど、中央線以外でオレンジ線が引かれているところはそんなに多くはない。
複数の車線があるところでも、だいたいの車線は白線でレーンがわけられているので、その車線が左折レーンなのか、直進レーンなのか、右折レーンなのかというようなことしか気に留めていなかった。
警察の人は、一度直進レーンに来てしまった以上はそのまま直進してほしかったと言った。
「慣れない道で不安だったのはわかるけど、それならば一度直進した後にハザードを出して停まって道を確認してもいいから、とりあえずあの場では直進してほしかった」と。
まぁ、正論を言えばそういうことになるだろう。が、あの短時間でそこまで冷静な判断をするのは極めて困難だと思う。
警察の人は「クラクションは“イラチ”で鳴らす人も多いからあまり気にしない方がいいよ」と言ってたけど、慣れない道でクラクションを鳴らされ、パニックになっているところに警察車両が目に入って冷静な判断ができる人は果たしてどのくらいいるのだろうか。
違反したのは事実だとはいえ、なんか納得がいかないなと思った。
*1:それゆえ、もしこれがオレンジ線ではなく普通の白線なら違反行為にはならなかった。